書斎の死体 / アガサ・クリスティー 著
小説には、 その類型によってそれぞれ使い古された文句がある。
メロドラマでは“頭の禿げた悪玉の准男爵”がそうだし、探偵小説には“書斎の死体”がある。
私は数年前から、“よく知られたテーマで斬新な変化のある”ものを書きたいと心ひそかに思っていた。
そしてその為にある特定の条件を設定した。
まず、問題の書斎はごくありふれたものでなければいけない。
それに反して、死体はまったく奇想天外な、あっと目を見張るものでなければいけないというふうに、 条件はいろいろ考え付いたのだが、数年間はそれをノートに2、3行書き記したままになっていた。
これは前書きにあるクリスティーの言葉の一部である。
その後、クリスティーが滞在していたホテルで、車椅子の老人と彼に付き添う家族を目に留めた事で、この 『書斎の死体』 が完成したのだが。
書斎に死体があるのがありきたりなパターンだとは知らなかった。
そもそも、「書斎」を持っているのが当たり前の世界に住んでいない私にはピンとこなかったのだ。
どのくらいありきたりかというと、日本の二時間ドラマに出てくる“赤い服と赤い帽子と、ごつい真っ黒なサングラスをした謎の女”の様なものかも、と思ってみた。
(探偵小説ではありきたりかもしれないが、現実社会ではそのファッションセンスは、決してありきたりではない…)
セント・メアリー・ミード村では、朝の9時前に人の家に電話をするべきではないというマナーが守られている。
だから8時前にミス・マープルの家の電話が鳴るのは、異例なこと。
しかも、友人のバントリー夫人からで自宅の書斎(おまけに…この家には書斎が複数ある)に、若い女の死体があるという。
そしてミス・マープルが友達の為に捜査に乗り出す事に。
それはさておき(?)、先日NHKのBS2で放送されていた、ポワロとミス・マープルのドラマを観ていた人は、どう思っただろうか?!
私は正直呆れてしまった。
あのシリーズ…原作とかなり違う!
そりゃあ、2時間で纏めなきゃならないんだから、エピソードを削るのは致し方ないとしても、設定や登場人物の性癖まで変えてしまっていた。
それどころか、この『書斎の死体』 に至っては、原作と犯人が違う!
いいのか、これで!?
とにかくやりたい放題で、同性愛カップルという古くさい目くらましや、
犯罪者が墓穴を掘って死んでしまうはずなのに、なぜか悲劇のヒロイン化して、最後にはちゃっかり彼氏までゲットしていたり、
原作では他人の筈が親子になっていたり、
亭主持ちの筈が独身で別の登場人物とできちゃったり、
偽の遺言状なんて出てきたり、
原作では死んでいるはずの人が生きていたり、
被害者が実は自分で殺されるつもりだった、等々。
ほんと、枚挙に暇がない。
あまりに原作をいじり過ぎて、辻褄があっていないような気がした。
なんだかクリスティーの作品とは言いがたいものがあったのは私だけ?
なによりも、ありきたりだったのは制作スタッフの能力だったかもしれない。
書斎の死体
アガサ・クリスティー 山本 やよい
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